「使命感や興奮、期待…そのどれもが新鮮で、常に大きな刺激を与えてくれる」 インタビュー:打楽器奏者 會田瑞樹さんが語る「初演」




吹奏楽でもブラスバンドでも室内楽でも、どのようなスタイルでも自分が「初演」を行う可能性はあります。

特に最近はじまったわけではないですが、例えばアマチュアの吹奏楽団(吹奏楽部)が作曲家に委嘱をして初演をする機械も割とあるような印象です。

「初演」、つまり新しい作品が世に発信されることは素晴らしいことだと思いますが、そもそもなぜ初演をしようと思うのか。たまたま選曲の結果なのか、それとも初演をすること自体が目的なのか。初演されてそれっきりで再演されない作品も多い印象があったので、しばらく「初演」とは何か、と考えていました。

もちろんどの初演もそれぞれに事情が異なるので正解はないのですが、数々の初演を手掛ける打楽器奏者、會田瑞樹さんに話を聞いてみたくなりました。會田さんは2020年の末には初演作品の数が300作品にまで到達しています。

ショートインタビューについてご快諾いただき、今回は會田さんに「初演」についてのお考えなどについてお伺いしました。

 



-會田さんは「初演魔」と呼ばれるくらいに初演が多く、2020年に初演作品の数は300作品にまで到達しました。「初演すること」に対するこだわりやお考えについてお伺いできますでしょうか。

 僕がはじめて新作を初演したのは2005年、仙台二高吹奏楽部創部50周年記念演奏会でのことです。吹奏楽部OBであった《K点をこえて》でおなじみの高橋伸哉先生に新作を依頼しました。連絡係もしていたので、伸哉先生とのメールのやり取りを通して、わくわくした気持ちを抱いたことを今でもはっきりと覚えています。

《輝く明日へのプレリュード》と言う作品だったのですが、演奏会が迫る中、手書きのスコアが少しずつ送られて来て、自分たちでパート譜を作り、途中まで音を出し、その続きが待ち遠しいと胸を躍らせたものでした。この曲の最後には二小節ティンパニのソロがあり、僕のために書いてくださったとお言葉をいただいた時は本当に飛び上がるほど喜びました。

この一連の経験が、今も僕の中で新作を演奏することへの思いに繋がっています。まだ誰も聞いたことのない音楽に触れて、それを初演するという使命感や興奮、期待…そのどれもが新鮮で、常に大きな刺激を与えてくれます。


-初演にあたり選曲や委嘱を行うことになりますが、どのようなことを意識しながら選曲されたり委嘱の内容詳細を決めていかれるのでしょうか。

 お願いしたい作曲家の作品や、新作初演を依頼された作曲家の他の作品を必ず聞くようにします。できればライヴで聞くのが望ましいですが、CDやインターネットも活用します。どんな作曲家なのか知ることが大事ですし、できればその作曲家の最近の作品と比較的古い作品なども合わせて聞くことが大切だと感じています。

作曲家の持つこだわりを感じ取ることが重要だと考えています。


-多くの作品が初演され世に出ていくのはもちろん素晴らしいことだと思いますが、再演が重ねられてより広く作品が楽しまれていくことが重要かと私個人的には考えています。初演後に、會田さん自身の再演だけでなく、他の方によって再演されるように會田さんが取り組んでおられることなどはございますでしょうか。

 高橋美智子先生に「新作は三度の演奏を経て、その作品の真価がわかる。」と激励されたことがあります。なるべく自分自身の手で二回、三回と演奏を重ねるようにしています。そうすると、必然的に、作品そのものが光を放ってくるので僕自身のレパートリーになっていきます。

 自分自身でも再演の機会を設けるように様々な場で演奏することを心がけています。また、出版についても迅速に進めていける環境づくりを今後とも整えていきたいと考えています。

 


-日本でもスクールバンドから社会人バンドまで、吹奏楽やブラスバンドなどで委嘱も含めて初演が行われることも多いですし、室内楽のグループであっても初演の機会は少なくないのではないかなと思います。主にアマチュアのそういったバンドやグループに向けて、初演に際しての心がけやその他注意点など、アドバイスをいただけますでしょうか。

 前述の通り、僕を突き動かしているのは高校時代のあのワクワクした経験からです。様々な発想力を持つ作曲家から学ぶことがたくさんあります。同時に作曲家もまた、演奏家がいなければただ楽譜がそこにあるだけになります。演奏家が音にすることで、音楽になる。これは音楽にしかない稀有で崇高な相互理解だと思います。

 さらにお願いする時の交渉にはじまり、日程の調整など初演までの道筋を立てていく経験は、音楽を社会的に拓いていく一側面ともなるのではないかと思います。是非、一人でも多くの方々が委嘱、新作初演を経験して、音楽が生まれる瞬間に立ち会って欲しいと思っています。

どんな音楽にも、初演された日があります。その時間の中に身を置くことで、音楽の素晴らしさをさらに感じることができるのではないかと思っています。

 


「初演とはこうあるべきだ!」というような感じではなく、會田さんらしい楽しくポジティブなメッセージを頂けたと思いますが、いかがでしょうか。

あまり難しく考えることではなかったのかもしれません。

今は予定がなくても、いざ初演をするぞ、となったときには、再びこの記事を読んで、心構えをあらたにしていただければ幸いです。

そしてやはり初演、新しい作品が生まれることもとても大事ですが、再演の機会がもっともっと増えるといいなと思います。

會田さん、お忙しい中、ありがとうございました!

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(取材・文:梅本周平/Wind Band Press)




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